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情報誌VoltAge21

技能五輪への挑戦  製缶工 相沢怜央

日本のモノづくりの
未来を担う、
若き技能者が輝く時。

本番さながらの緊張感の中、
技能修得に全力を注ぐ

 溶接作業を行う若者と、彼の一挙一動に鋭いまなざしを向ける先輩。「技能五輪全国大会」(以下 技能五輪)に参加する選手として訓練に励む新人の相沢怜央と、マンツーマンで指導する入社5年目の川崎智文です。さらに、彼ら2人を見守る大先輩の姿もありました。日立グループで最高位の作業者として金バッジが授与された「工師」であり、「現代の名工」にも選ばれた清水頭孝悦です。清水頭しみずがしらは若き日に技能五輪で優勝した経験があります。

 工業高校で学んだ相沢は、「高校の先生から技能五輪の話を聞いた時、最初はあまり興味がありませんでした」と言います。しかし、日立産機システムへの入社が決まった高校3年の秋に内定者向けの実習で現場作業を体験し、高度な技術を目の当たりにしたことから、「全国レベルで技術を競う技能五輪にチャレンジしたい」と、意欲に火がつきました。

 相沢の所属する勝田事業所では、若手技能者が技能五輪参加に向けて挑戦できる環境が整っています。選手に選ばれた若手と、指導員を務める先輩社員は、通常業務から離れ、本大会の会場同様にしつらえられた訓練所で訓練・指導に励むことが日々の“仕事”。働く時間のすべてが訓練に充てられるのです。

事業統括本部 受変電制御システム事業部
製造部 受変電システム製作課 国分製缶係 製缶組  相沢怜央今春の入社と同時に技能五輪選手となった。高度な正確さが求められる訓練を通じて“モノづくり”への考え方も高まった。

日本の若き技能者たちが集い、
切磋琢磨する技能五輪全国大会

 「技能五輪全国大会」は、青年技能者の技能水準向上のため、厚生労働省と中央職業能力開発協会が主催して毎年開催されています。2年に一度、世界大会も行われており、該当年の入賞者は日本代表として日本の力を世界のステージで発揮します。国内の大会では、各都道府県から選ばれた若者たちが腕を競い合い、金属系、電子技術系、機械系、情報通信系、建設・建築系やサービス・ファッション系など幅広い職種が設定され、相沢は〈構造物鉄工〉職種で表彰台を狙います。〈構造物鉄工〉では鋼材を切断・加工・溶接・組立などして構造物をつくり上げます。競技は2日間にわたり、厳しい審査員の視線を浴びながら課題の構造物を誰のアドバイスも助けも受けることなく課題に挑みます。また技能五輪への参加は、選手である若手技能者とともに、指導する先輩を育成する機会でもあります。

基礎の基礎からひたむきに
訓練を積み、県予選を合格

 技能五輪では、職種ごとにその年度の課題が事前に発表されます。〈構造物鉄工〉では、課題図や持参工具、競技会場の設備などが公表され、選手たちは何度も時間内に課題の構造物をつくり上げる練習を積み重ねて大会に臨むことになります。ただし、全国大会の選手に選ばれるには、各地域の代表に選出されていなくてはなりません。県代表に選ばれるために、相沢は、まず基礎的な技能の修得に徹底して取り組みました。真っすぐ切る、円を切る、きれいに溶接する、といった基本的な作業訓練を繰り返しました。同時に、指導員の川崎が用意した図面通りに、曲げや孔あけなどの加工を必要とする構造物をつくり、要素訓練をこなします。そして本年7月、徹底した訓練の甲斐あって、茨城県代表に選ばれ、課題が発表された8月以降は課題に沿った本番さながらの訓練に取り組んできました。

読図作業

1 読図作業

与えられた図面を見て、構造物の全体を把握するとともに、作業手順や作業上の留意点、必要な機材や工具などについて考える。

罫書き作業

2 罫書き作業

加工作業に必要な線や点を鋼材に直接記していく。

3 切断作業
切れている縁の様子や音を頼りに、炎の強さ、鉄板の温度に応じて切断の速度を調整しながら切断する。

4 曲げ加工

4 曲げ加工

幅のある鋼材の端から端までバーナーで熱を入れ、一気に折り曲げる。左から右へと照射する間に左が冷めるので、きれいに曲げるのには経験が必要。

5 孔あけ

5 孔あけ

正確な位置を罫書きで定め、安全に留意して正確に美しく孔をあける。

6 組み立て

加工した部材を、接合によって生じるゆがみなどを考慮しながら、正確な位置、寸法を確認し、組み立てる。

6 組み立て

7 溶接

8 仕上げ

7 溶接

外観重視の溶接。溶け込みが多くなると変形量も大きくなるため、低電流で丁寧に作業する。

8 仕上げ

構造物の出来映えを左右するのが仕上げ工程。五感を駆使して美しさ、滑らかさを追求する。

本番に向けて、心技体ともに鍛える

 溶接を学んできた相沢も〈構造物鉄工〉職種の溶接は難しいと言います。「高校で学んだ溶接とは別物という感じです。訓練で、溶接技術は格段にレベルアップしたと思います」とのこと。しかし、多様な技能が要求される〈構造物鉄工〉の中では、まだ苦手な分野もあります。それが曲げ加工。「例えば曲げでねじれてしまったら、どの修正方法がベストか。修正不要なのがベストですが、入熱の大きさが違うと曲げたときに鉄がねじれてしまい、その後の対応が難しいと思います」。

 曲げる、切る、溶接する、といった技能の修得は感覚的な要素が大きく、指導員の川崎も「言葉で伝えにくいもどかしさ」を実感したと言います。相沢は「最初は川崎さんの言いたいことが全然分からなかったのですが、最近は感覚が徐々につかめてきました」と、ようやく呼吸が合ってきた様子。
 一方、訓練を通じて相沢の強みが際立ってきました。「どんな作業でも動きが早いのです。工具を取ったり移動したり、掃除をしたりする時の素早さが生む、わずかな時間の積み重ねが限られた競技時間の中では有利に働きます」と川崎。

 訓練には毎朝のランニングや筋トレもあります。競技時間が長いので、体力が必要だからです。「心技体というように、技も身体づくりも大切。心の部分では、うまくいかなくても冷静になる強さ、プレッシャーに負けない強さも求められます」と清水頭。事業所、そして日立産機システムの代表として期待を力に変え、いよいよ本年11月には全国大会に挑みます。

川崎のほか、技能五輪経験のある清水頭も指導に加わり、全力でサポート。

川崎は「最初は全然できなかった選手が指導通りにできるようになる姿を見ると、自分のことのようにうれしい」と言う。

指導員の川崎もまた、新人時代の2年間は技能五輪代表として技能を磨いた。冷静な判断力が評価され、清水頭から今回の指導員を任せられた。(左) 川崎が選手として技能五輪に出場した際の作品。(下)

川崎が選手として技能五輪に出場した際の作品。

曲げ加工の訓練での“師弟”2人の真剣なまなざし。

曲げ加工を行う相沢と、その様子を見守る川崎。

曲げ加工の訓練での“師弟”2人の真剣なまなざし。(左上) 曲げ加工を行う相沢と、その様子を見守る川崎。(右上) 「会社を背負うプレッシャーに負けず、思い切り実力を発揮してほしい」と笑顔を見せる清水頭。(右下 中央)

「会社を背負うプレッシャーに負けず、思い切り実力を発揮してほしい」と笑顔を見せる清水頭。

技能五輪全国大会

日本の誇りとなる技能を競う若者に注目!

技能五輪全国大会は、原則として23歳以下の国内の青年技能者が技能レベルを競うものです。技能水準の向上や、一般に向けて技能の重要性・必要性をアピールすることなどを目的に1963年から各都道府県を会場に開催されており、第56回となる本年は沖縄県で大会が行われます。

技能五輪全国大会

■採点項目
競技課題採点 寸法精度(高さ・幅・角度・歪み、等)
できばえ(切断面・曲げ・溶接・合わせ部、等)
組立調整(可動部・ピン状態・寸法誤差・高さ誤差、等)
競技時間(標準設定時間)
競技態度・安全・違反事項等(競技態度・不安全行為・違反事項、等)