溶接作業を行う若者と、彼の一挙一動に鋭いまなざしを向ける先輩。「技能五輪全国大会」(以下 技能五輪)に参加する選手として訓練に励む新人の相沢怜央と、マンツーマンで指導する入社5年目の川崎智文です。さらに、彼ら2人を見守る大先輩の姿もありました。日立グループで最高位の作業者として金バッジが授与された「工師」であり、「現代の名工」にも選ばれた清水頭孝悦です。
工業高校で学んだ相沢は、「高校の先生から技能五輪の話を聞いた時、最初はあまり興味がありませんでした」と言います。しかし、日立産機システムへの入社が決まった高校3年の秋に内定者向けの実習で現場作業を体験し、高度な技術を目の当たりにしたことから、「全国レベルで技術を競う技能五輪にチャレンジしたい」と、意欲に火がつきました。
相沢の所属する勝田事業所では、若手技能者が技能五輪参加に向けて挑戦できる環境が整っています。選手に選ばれた若手と、指導員を務める先輩社員は、通常業務から離れ、本大会の会場同様にしつらえられた訓練所で訓練・指導に励むことが日々の“仕事”。働く時間のすべてが訓練に充てられるのです。
今春の入社と同時に技能五輪選手となった。高度な正確さが求められる訓練を通じて“モノづくり”への考え方も高まった。
「技能五輪全国大会」は、青年技能者の技能水準向上のため、厚生労働省と中央職業能力開発協会が主催して毎年開催されています。2年に一度、世界大会も行われており、該当年の入賞者は日本代表として日本の力を世界のステージで発揮します。国内の大会では、各都道府県から選ばれた若者たちが腕を競い合い、金属系、電子技術系、機械系、情報通信系、建設・建築系やサービス・ファッション系など幅広い職種が設定され、相沢は〈構造物鉄工〉職種で表彰台を狙います。〈構造物鉄工〉では鋼材を切断・加工・溶接・組立などして構造物をつくり上げます。競技は2日間にわたり、厳しい審査員の視線を浴びながら課題の構造物を誰のアドバイスも助けも受けることなく課題に挑みます。また技能五輪への参加は、選手である若手技能者とともに、指導する先輩を育成する機会でもあります。
技能五輪では、職種ごとにその年度の課題が事前に発表されます。〈構造物鉄工〉では、課題図や持参工具、競技会場の設備などが公表され、選手たちは何度も時間内に課題の構造物をつくり上げる練習を積み重ねて大会に臨むことになります。ただし、全国大会の選手に選ばれるには、各地域の代表に選出されていなくてはなりません。県代表に選ばれるために、相沢は、まず基礎的な技能の修得に徹底して取り組みました。真っすぐ切る、円を切る、きれいに溶接する、といった基本的な作業訓練を繰り返しました。同時に、指導員の川崎が用意した図面通りに、曲げや孔あけなどの加工を必要とする構造物をつくり、要素訓練をこなします。そして本年7月、徹底した訓練の甲斐あって、茨城県代表に選ばれ、課題が発表された8月以降は課題に沿った本番さながらの訓練に取り組んできました。
与えられた図面を見て、構造物の全体を把握するとともに、作業手順や作業上の留意点、必要な機材や工具などについて考える。
加工作業に必要な線や点を鋼材に直接記していく。
幅のある鋼材の端から端までバーナーで熱を入れ、一気に折り曲げる。左から右へと照射する間に左が冷めるので、きれいに曲げるのには経験が必要。
正確な位置を罫書きで定め、安全に留意して正確に美しく孔をあける。
加工した部材を、接合によって生じるゆがみなどを考慮しながら、正確な位置、寸法を確認し、組み立てる。
外観重視の溶接。溶け込みが多くなると変形量も大きくなるため、低電流で丁寧に作業する。
構造物の出来映えを左右するのが仕上げ工程。五感を駆使して美しさ、滑らかさを追求する。
溶接を学んできた相沢も〈構造物鉄工〉職種の溶接は難しいと言います。「高校で学んだ溶接とは別物という感じです。訓練で、溶接技術は格段にレベルアップしたと思います」とのこと。しかし、多様な技能が要求される〈構造物鉄工〉の中では、まだ苦手な分野もあります。それが曲げ加工。「例えば曲げでねじれてしまったら、どの修正方法がベストか。修正不要なのがベストですが、入熱の大きさが違うと曲げたときに鉄がねじれてしまい、その後の対応が難しいと思います」。
曲げる、切る、溶接する、といった技能の修得は感覚的な要素が大きく、指導員の川崎も「言葉で伝えにくいもどかしさ」を実感したと言います。相沢は「最初は川崎さんの言いたいことが全然分からなかったのですが、最近は感覚が徐々につかめてきました」と、ようやく呼吸が合ってきた様子。
一方、訓練を通じて相沢の強みが際立ってきました。「どんな作業でも動きが早いのです。工具を取ったり移動したり、掃除をしたりする時の素早さが生む、わずかな時間の積み重ねが限られた競技時間の中では有利に働きます」と川崎。
訓練には毎朝のランニングや筋トレもあります。競技時間が長いので、体力が必要だからです。「心技体というように、技も身体づくりも大切。心の部分では、うまくいかなくても冷静になる強さ、プレッシャーに負けない強さも求められます」と清水頭。事業所、そして日立産機システムの代表として期待を力に変え、いよいよ本年11月には全国大会に挑みます。
技能五輪全国大会は、原則として23歳以下の国内の青年技能者が技能レベルを競うものです。技能水準の向上や、一般に向けて技能の重要性・必要性をアピールすることなどを目的に1963年から各都道府県を会場に開催されており、第56回となる本年は沖縄県で大会が行われます。
■採点項目 | |
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競技課題採点 | 寸法精度(高さ・幅・角度・歪み、等) |
できばえ(切断面・曲げ・溶接・合わせ部、等) | |
組立調整(可動部・ピン状態・寸法誤差・高さ誤差、等) | |
競技時間(標準設定時間) | |
競技態度・安全・違反事項等(競技態度・不安全行為・違反事項、等) |
( vol.101・2018年11月 掲載 )