あらゆる工業製品をかたちづくる金型は、“生産工学の王”
“モノづくり”の現場において重要な役割を果たしている、金型。自動車や家電製品から通信機器、医療品その他、私たちを取り巻くあらゆる製品は、多種多様なパーツで構成されていますが、それらのパーツは金型によって形づくられています。金属や樹脂などをプレスして成形加工したり、溶かした材料を流し込んで冷やし固める射出成形と、素材や用途によってつくり方は異なりますが、いずれにおいても、安定的に大量の製品を生産する上で、金型はなくてはならないもの。
寸分違わず同じものを生産し続けるために繰り返し繰り返し使われる金型は、耐久性に優れている必要があります。また、パーツの仕上がりが製品デザインや品質に関わってくるだけに、金型には精巧さが求められます。特に精密部品の製造に用いられる金型は、1万分の1mm、10万分の1mm単位の精度が要求されるものです。日本と同様に“モノづくり”が盛んなドイツでは、“金型は生産工学の王”と表現されるのもうなずけます。
「現代の名工」に選ばれた金属手仕上げの優れた技術
日立産機システムには金型製作部門があり、より優れた金型の設計・製作に取り組んできました。いくつもの工程を経て仕上げられていく金型は、設計図に沿って鉄などの素材を削ったり穴を開けたりと加工・成形した後、高温で熱して急速冷却する焼き入れを行って強度を高めます。さらに表面を削って滑らかにする研削加工を施し、要求精度に仕上げた部品を組み立てて、ようやくひとつの金型が完成します。
日立産機システムでは、1982(昭和57)年頃から、社内で蓄積した技術力を活かして社外の各種メーカーからの要望に応じた金型製造を展開してきました。1996(平成8)年からは、特に高度な加工の技能がなければできないとされる“精密金型”の製造にも進出。この分野から幾人ものマエストロともいえる名工を輩出してきましたが、精密金型の製造チームをリードし、厚生労働省から優れた技能者として認められ、「現代の名工」にも選ばれているのが、精密金型の製作主任として働く金属手仕上げ工・白井成三です。
高い精度の研磨の前に、回転の中心を
正確に計る。精密な製品を仕上げるためには
欠かせないプロセス。
金型製品の部品は、
顕微鏡を覗きながら丁寧に磨いていく。
気が抜けない作業だ。
機械より高い精度でナノ単位の違いを見分ける
精密金型の製造工程の中で、白井が得意とするのは、仕上げ・組み立ての最終工程。例えば光ディスク金型の製造の場合、ディスクの表面に接することになる部分に研磨材を塗り、専用の顕微鏡をのぞいて確認しながらブラシで鏡面のように磨き上げますが、この作業場はクリーンルーム。わずかなゴミやチリも鏡面加工の敵だからです。研磨剤は粒の大きさによって複数の種類を使い分けます。前に使った研磨材が手や工具に残っているとキズの原因となるため、洗浄を心がけ、研磨材同士が混じらないよう常に気を配ります。工具はブラシだけで20種類以上あり、必要に応じて手づくりしているのだとか。
光ディスク金型の要求精度は何と2ナノ(=百万分の2ミリ)。機械仕上げでは2マイクロメートル(=千分の2ミリ)までの面精度が限界なのに対して、白井の手作業は2ナノの精度で磨き上げることが可能。しかも、白井は肉眼と指先で、2ナノの違いがわかるといいますから、その技術のレベルは想像を超えます。
作業に集中し、工夫と改善の積み重ねでより良いモノづくり
「磨くスピードによって、金属でも剥離することがある」と白井。剥離の原因は未だ解明されていないといいますが、白井は自身の経験から、表面にたまった熱ではないかと考えています。焦って手を早く動かすと、表面にオレンジピールと呼ばれる穴が開くなどの不具合が発生してしまいます。
光ディスクの金型では、仕上げ工程段階からフィニッシュまでにかける時間は約4時間。「自分は、最後までやり切らないと気が済まない性格ですから」と、この間、ほぼ休憩時間なしで高い集中力を保ったまま作業に取り組みます。また、同じものを作る場合でも、少しでも短時間でより高精度を出す方法はないか、毎回チャレンジし、改善を心がけているといいます。
バラエティに富んだ工具。磨き方で使い分ける。
磨いた後(左)、磨く前(右)。
凹凸部の研磨に手づくりの工具を使う。
仕上げの精度は検査室で厳しく確認する。
失敗を恐れることなく積極的にチャレンジする社風が、人を育てる
「工夫しながら考え、できないことにチャレンジするところに、モノづくりの面白さがある」と語る白井。そして、「チャレンジを後押しする姿勢こそが、日立産機システムの社風だ」とも。
入社以来、精密金型一筋に歩んできた白井は、カセットテープをつくる金型が“精密金型の花形”とされた時代、20代半ばの若手社員だった白井は、その業務立ち上げを任されたことがありました。先輩の指導を受け、失敗を繰り返しながら軌道に乗せていった経験が金型のプロを育みました。「自分たちの技能・技術力をもってすれば、必ずできる!」という先輩から受け継いだ強い信念と研究心で、その後もコンパクトディスク、携帯電話のボタンなどと、時代の変化の中でニーズに応える新たな金型を世に送り出し続けてきました。自らの技を高めた現在、金型の将来を担う若き技術者を育成することも、白井の大切な使命となっています。
単なる技術の修得に終わらず、
技術を磨き、高め合う仲間がいるのが強み
「どんなに技術が進歩して機械が高度化しようと、最終的な決め手となるのは技術者の能力。生産拠点の海外移転によって日本の金型技術が流出したといっても、“人づくり”の点で、日本のモノづくりが負けることはないと思います」。
20代の若手からキャリア40年のベテランまで、日立産機システムの精密金型製造現場で活躍するスタッフいずれもが、「自分で工夫しよう」とする気概を持ち、互いの技術レベルの向上に切磋琢磨しています。白井が先輩から受け継いだ技と精神はしっかりつながっているようです。
白井を含めた金型チームのチャレンジと改善は、今この瞬間も、日立産機システムモノづくりの発展に貢献しています。彼らの手で生み出された金型は、今後も、品質と精度にこだわる日本のモノづくりを支えていくことでしょう。
受配電・環境システム事業部
生産技術部 金型グループ製作係
製作組長 菅原秀和(写真中)
五十嵐直大(写真右)
鋼材を、「削る」「磨く」を重ねて複雑な形状や鏡面に仕上げていくのが、私たちの仕事の面白み。厳しい要求に応える寸法精度を出すのは大変ですが、身近に相談できる優れた先輩がいる恵まれた環境で腕を磨き、技能グランプリでも好成績を収められたことに感謝しています。今後は、受け継いだ「挑戦する姿勢」を後輩にも伝えます。
すでに高い技術を獲得していても、若手技術者にとっては白井の指導はありがたい。
お客さまのニーズに応え、
一貫した開発体制で生産効率の高い製品を提供しています。
匠の技を極めた超高精度の磨き加工による光ディスク金型や、携帯端末ボタン、ディスク読取部などの情報メディア用精密金型ほかインサート・アウトサート部品用精密金型など、設計・製作・成形作業まで一貫した開発体制で臨んでいます。
特級(2名)、1級(28名)、2級(2名)
※2013年4月現在
第20回(2000年) 優勝、厚生労働大臣賞受賞
第21回(2001年) 優勝、内閣総理大臣賞受賞
第23回(2005年) 優勝、厚生労働大臣賞受賞
第24回(2007年) 優勝、厚生労働大臣賞受賞
第26回(2011年) 優勝、厚生労働大臣賞受賞
第28回(2015年) 3位入賞
※中央職業能力開発協会、
社団法人全国技能士会連合会による共催
日本海に面した緑の松林に囲まれ、恵まれた自然環境の中に建つ最新鋭の工場です。地球温暖化防止に対応した超低損失=省エネ化を実現して1999年度省エネ大賞を受賞した「アモルファス変圧器」をはじめとする省エネ・環境に配慮した製品づくりを行い、国内はもとより世界に向けても「MADE IN NAKAJO」と誇れる産業機器の開発・設計・製造に取り組んでいます。
変圧器
Superアモルファス
Zeroシリーズ
開閉器
クリーンエア装置
エアシャワー
( vol.81・2015年7月 掲載 )